「怒ってるのかい?」
「…。」

(まずいなあ、いつもならここで真っ赤になって眉吊り上げて、何か叫ぶはずなのに。)
フォルデは、それでも暢気に考えた。

「ヴァネッサ?」
「…。」
上空は風の音が随分うるさいのだな、と、フォルデは矢張り暢気に考えた。



然程厳しくはならないだろうと思われた戦いが、予想以上に長引いた。
じわじわと体力を削られ、それでも何とか優勢を保っていた戦のさなか、ヴァネッサは敵兵に囲まれるフォルデの姿を見かけた。
彼が見かけによらず優れた兵であることは知っていた。しかし、それにしても敵の数が多かった。
少し離れた所に舞い降り、叫ぶ。
「フォルデ、加勢します!」
「ああ、そりゃあ、助かる。」
ヴァネッサに気付いた何人かがこちらへ向かってくる。
それに応戦して初めて気付くが、随分と手練れが多い。彼はこの中でひとり戦っていたのか。
近付いてみると、意外に傷が深い。ヴァネッサは顔をしかめた。
「あなた、怪我が多いじゃない。早く薬を使わないと」
「いや、無くってさ。」
「・・・は?」

「傷薬、無くなっちまって。」

頬をはたいてやりたい衝動にかられるが、それどころではなかった。
「乗って。」
「え?」
「早く!」
愛馬は男性を乗せることに多少ならず反発する。それをなんとか宥めて、二人は空へ昇った。



「充分に持ったつもりだったんだよ。」
「…。」
「そういうこと、あるだろ?」
「…。」
「あ、って思った時には抜け出せなくて。」
「あなたの、」
ヴァネッサは漸く口を開いた。
「あなたのしたことについて怒る気はないわ。ただ、貴方は何をするにも適当にしているように見えてしまうのよ。」
フォルデはヴァネッサの背中に笑いかける。
「ああ、よく言われる。」
「よく言われるのなら、改めて。」
次は目を丸くする番だった。
(今日は、よくはねっ返るな。)
「…あまり、心配をかけないで。」
「…ああ、改めるよ」
しおらしく呟かれてしまって、内心で一瞬、珍しいものを見られた嬉しさと申し訳なさがせめぎ合う。

「ああ、ルーテがいたわ。」
眼下に、眩しい光を操り容赦なく敵に浴びせる姿が見える。
「何か、楽しそうだな。あの子…。」
「もう、そういう事を言うものではないわ。」
そういいながらヴァネッサは心持ち居ずまいを直す。

「さあ、もう喋らないで。」
ヴァネッサの唐突な台詞にフォルデは首を傾げる。
「え?」
「舌を噛むから。ああ、あと、腰に手を回して。ちゃんと掴まって。」

これから何が起こるか半ば理解したフォルデは慌てて言う通り手を回す。
ペガサスは翼をひとつ羽ばたき、美しい形に広げた。
そのまま流れるように急降下を始める。

フォルデは声にならない悲鳴を上げた。









*********

何が書きたかったって、ペガサスに乗るフォルデと、オチ。



作成日失念(だいぶ前)



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